一九八三年ころ、わたしが『試行』に投稿(「横光利一小論」)したあとに吉本宅を訪れたときに、その投稿を読んだ吉本さんの答えは、「横光の『旅愁』を読んでないでしょう。横光のその小説は横光の戦争を描いたもので、これがわからなければ横光はわからない。これを読んで決定的な横光論を書いてください」というものだった。このとき、なににわたしは狼狽したのだろうか。そのときはまったくわからなかった。これを理解するには時間が必要だった。わたしは吉本が秘めている「死」に接したのだと、今になって思う。(「きれぎれ〔『全質疑応答V 1980〜1986』に寄せて〕」より)
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