娘を殺した男がすぐ目の前にいる。贖罪や反省の思いなど微塵も窺えないふてぶてしい態度で。
東京に住む保阪宗佑は、娘を暴漢に殺された。妊娠中だった娘を含む四人を惨殺し、死刑判決に「サンキュー」と高笑いした犯人。牧師である宗佑は、受刑者の精神的救済をする教誨師として犯人と対面できないかと模索する。今までは人を救うために祈ってきたのに、犯人を地獄へ突き落としたい。煩悶する宗佑と、罪の意識のかけらもない犯人。死刑執行の日が迫るなか、二人の対話が始まる。動機なき殺人の闇に迫る、重厚な人間ドラマの書き手・薬丸岳の新たな到達点。
〈著者・薬丸岳さんから〉 「死刑になりたいから人を殺した」 「誰でもいいから人を殺したかった」 世間で無敵の人と呼ばれる凶悪犯には心がないのか。いや、そんなはずはないという祈りを込めました。 ぼくの作品の中で最も重く苦しい物語です。どうか覚悟してお読みください。
〈担当編集者から〉 「罪を憎んで人を憎まず」と言いますが、実際に愛する人を殺されたら、そうすることはできるのでしょうか? この究極の問いを突き付けられるのは、牧師であり、無償で受刑者の精神的救済もしてきた主人公・宗佑です。品行方正に生きてきたのではなく、過去に犯した罪の罪悪感に苦しんできた宗佑。自分が救われたように、人々を救いたいという強い気持ちを持って真摯に仕事に取り組んできた彼が、何よりも大事にしてきた娘を惨殺されたら――。復讐という動機で犯人に接する宗佑に湧きおこる、まさかの感情。犯人と、彼をこの世で一番憎んでいる宗佑との対話。重いテーマではありますが、読む人の心を揺さぶる傑作です。ぜひご一読ください。
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