世界的名匠の目は、現場で何を見て、何を考えているのか? 『万引き家族』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞後、 主演にカトリーヌ・ドヌーヴを迎え、全編パリで撮影された映画『真実』。 日仏合作映画の製作は、予想外の困難と発見の連続だった──。
臨場感溢れる撮影日記、手紙、画コンテなど貴重な資料が満載の 単行本『こんな雨の日に〜映画「真実」をめぐるいくつかのこと』を改題し、待望の文庫化。 文庫版には、監督自身による渾身の大幅加筆と、女優の橋本愛さんによる解説が新たに付され、 『真実』の後日譚とともに、韓国で撮影され、 カンヌで二冠の偉業を成し遂げた『ベイビー・ブローカー』、 総合演出を務めたNetflixの『舞妓さんちのまかないさん』、 坂元裕二、坂本龍一とタッグを組んだ話題作『怪物』(カンヌ国際映画祭コンペ部門ノミネート)の制作秘話も語られる。
現場で次々に起きるトラブルやカルチャーショックを、 監督の筆は、ユーモラスに、時に真剣な怒りを湛えて綴る。 刺激的な異文化体験や真摯な対話の末に生まれる奇跡のような瞬間が、 この本にはたしかに記録されている。
「楽しかったことも辛かったことも、発見も喪失も、 出来るだけ正直に書いたつもりだ」(「はじめに 寒いパリの夜に」より)
海外での撮影を通して自身に起きた「確変」とは? 韓国のエンタメ隆盛の裏にある、残酷な「イカゲーム」のごとき現実。 Netflixなど配信の台頭と、消えゆくフィルム上映──。 変わりゆく映画を見つめる監督の眼差しは、あくまで透徹している。
「映画は変わる。変わり続ける。(中略) それでも変わらないであろう映画の原初の形と、 早晩映画とは呼ばれなくなるであろう『映画』の間を往来しながら 自分は映画を作り続けていくことになるだろう」(「終わりに 寒い2月に東京で」より)
橋本愛さんによる文庫解説「映画の暴力と救済について」に横溢する映画への愛と才能にも刮目されたし。
この本は、すべてのクリエイター、何かを生み出したい人のためのバイブルだ。
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