1990年代以降、現代アートは欧米だけでなく世界の多様な歴史や文化的観点から考えられるようになりました。それはもはや学校の授業で考える図画工作や美術といった枠組みを遙かに越え、むしろ国語・算数・理科・社会など、あらゆる科目に通底する総合的な領域ともいえるようになってきました。それぞれの学問領域の最先端では、研究者が世界の「わからない」を探求し、歴史を掘り起こし、過去から未来に向けて新しい発見や発明を積み重ね、私たちの世界の認識をより豊かなものにしています。現代アーティストが私たちの固定観念をクリエイティブに越えていこうとする姿勢もまた、こうした「わからない」の探求に繋がっています。そして、現代美術館はまさにそうした未知の世界に出会い、学ぶ「世界の教室」とも言えるでしょう。
●現代アートを8つの教科で紹介 本展は、学校で習う教科を現代アートの入口とし、見たことのない、知らなかった世界に多様な観点から出会う試みです。展覧会のセクションは「国語」「社会」「哲学」「算数」「理科」「音楽」「体育」「総合」に分かれていますが、実際それぞれの作品は複数の科目や領域に通じています。また、当館の企画展としては初めて、出展作品の半数以上を森美術館のコレクションが占める一方、本展のための新作も披露され、50組を超えるアーティストによる学びの場、「世界の教室」が創出されます。
●現代美術史で参照すべき重要な作品を展示 現代アートをさまざまな視点から振り返る際に参照すべき重要な作品を展示します。ジョセフ・コスースは作品の見た目ではなく、アイディアやコンセプトこそが肝要であるとした1960年代のコンセプチュアル・アートの主要作家です。この考え方は今日の現代アートの底流をなすもので、コスースの《1つと3つのシャベル》(1965年)はその象徴的な作品です。また、20世紀の美術史のなかで最も影響力のあるアーティストのひとりヨーゼフ・ボイスは、誰もが芸術家として柔軟な社会を作ることに参加する、拡張された芸術の概念「社会彫刻」を提唱しました。本展では、彼が1984年に初来日した際、東京藝術大学の講義で使用し、その筆跡が残された黒板を展示します。ボイス本人との対話は、その後アーティストやキュレーターになった多くの日本の若者に、並々ならぬ影響を与えました。
●世界的に活躍するアーティストたちの新作にも注目 いま最も注目を集めるヤン・ヘギュは、日系ブラジル人アーティスト大竹富江の彫刻作品や、エネルギー問題、気候変動など、世界のさまざまな事象を引用した新作インスタレーションを発表します。他に、ヤコブ・キルケゴール、パーク・マッカーサー、宮永愛子による本展のための新作も展示します。 英文併記。
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