家族を中心とした他者との交錯のさま、そしてそれらを通じて紡ぎ出された一連の作品群から、宮沢賢治の仏教思想とそのバックボーンを解明する。
「聖人」「天才」というヴェールを剥がし、近代という時代のなかで悩み続ける「人間・宮沢賢治」の本質を抉り出した意欲作!
*********** ともすれば、賢治は東北の地に突如として現れた孤高の才能であるかのように語られる。しかし、賢治の思想形成にかかわったものは、必ず存在する。孤独な天才がひとり天啓を受けたのではない。賢治も実人生において生きた人間とかかわり、実際の出来事から影響を受けながら、それと同時に、同時代の思想潮流とも接点を持ちつつその思想を形成していったと考えるべきであろう。本書で描き出したいのは、聖人としての宮沢賢治≠ナはなく、やや異様なこだわりをみせ、悩み続け、思索し、行動する人間・宮沢賢治≠ナある。そして、賢治の思索の軌跡を追うために、賢治が接点を持った同時代の思想潮流に注目すること、具体的には近年大きく進展を遂げている近代仏教研究の成果を積極的に活用していく点に、本書の大きな特徴がある。(「序章」より) ***********
【目次】 序 章 研究の射程と方法 第一章 宮沢賢治の改宗と父・政次郎 第二章 宮沢トシの信仰―「我等と衆生と皆倶に」― 第三章 トシをめぐる追善 第四章 玄米四合の理想―森鴎外、そして母・イチ― 第五章 宮沢賢治の菜食主義―田中智学との比較から― 第六章 関東大震災と『銀河鉄道の夜』 第七章 『銀河鉄道の夜』における他者 第八章 賢治童話における自己犠牲―グスコンブドリからグスコーブドリへ― 補 章 恋する賢治―受容史の中の宮沢賢治― 終 章
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