小説『ペンギンの憂鬱』『灰色のミツバチ("Gray Bees")』の著者で、2014年のマイダン革命を『ウクライナ日記』に書き記したアンドレイ・クルコフが、2022年2月に始まったロシアとウクライナの戦争について書いたノンフィクション。戦況の激化していく同年7月までの日々が、作家の観察眼で生々しく綴られている。戦時下ウクライナの記録。ロシア文学者・沼野恭子による解説を収録。
「2022年2月24日は、ほとんど何も書けなかった。キーウに響き渡ったロシアのミサイルの爆発音で目覚めた私は、自宅アパートメントの窓辺に一時間ほど立ち尽くして人気のない街路を眺めやり、戦争が始まったと気づいたが、この新たな現実をまだ受け止められなかった。続く数日間もやはり何も書けなかった。車でまずはリヴィウに、それからカルパチア山脈をめざした移動は、果てしない渋滞で想像を絶する長旅になった。国内の他のあらゆる地域からの車の波が、西へ続く道という狭い漏斗めがけて押し寄せていた。誰もが戦争の暴力から家族を守るために逃げようとしていた」──まえがきより
「著者は最初から各国語に翻訳されることを想定していたにちがいなく、ウクライナの状況をよく知らない読者にも理解しやすいよう配慮されていて読みやすい。全体として、作家自身が実際に見聞した具体的な出来事と、その背景説明や思索にあてられた部分がほどよいバランスで融合した、非常に優れたルポルタージュになっている」──解説 沼野恭子「〈記憶の保管庫〉としての日記」より
著者:アンドレイ・クルコフ(Andrey Kurkov) キーウ在住のロシア語作家。1961年ソ連のレニングラード州ブードゴシチに生まれ、3歳のときに家族でキーウに移る。キーウ国立外国語教育大学卒業。オデーサでの兵役、新聞や出版社の編集者を務めるかたわら小説やシナリオを執筆。96年に発表した『ペンギンの憂鬱』が国際的なベストセラーとなり、その名を一躍有名にした(沼野恭子訳、新潮クレストブックス)。著作は30以上の言語に翻訳されている。日本では『大統領の最後の恋』(前田和泉訳、新潮クレストブックス)『ウクライナ日記』(吉岡ゆき訳、ホーム社)も紹介されている。2014年フランスのレジオンドヌール勲章を受章。18年から22年までウクライナ・ペン会長。
訳者:福間恵(ふくま・めぐみ) 東京大学大学院人文社会系研究科博士課程(現代文芸論)単位取得満期退学。記事翻訳・出版翻訳を手がける。訳書に『英文創作教室』(共訳、研究社)、『作家たちの手紙』(共訳、マール社)、『アニマル・スタディーズ』(共訳、平凡社)などがある。
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