「なんでもないあの人」……。 「なんでもないあの人」ってどんな人のことをいうのでしょうか。
本に登場するのは、鮮やかな赤い色のスカートで現れる小さな町の有名人、ほとんど話したことがなかったのに転校したら親しげに手紙を送って来る元同級生、小説を書くのが好きなわたしが市の文学賞の授賞式で見た情けないおじさん、毎朝なぜか黒板に予言を書く隣の席の人。
読めば、ああ自分の周りにもいるかも、と分かってくる「なんでもない人」。実は「すきな人」よりも「きらいな人」よりもたくさん存在しているのかもしれませんね。でもその「なんでもない人」が主人公に、そして読者である私たちに教えてくれるのは、決してなんでもないことではないのです。
絵の具からいろいろな色が出現する「パレット」のように、4つの物語に出てくる主人公自身もユニークなら、出会う「なんでもない人」も多様です。「なんでもない」存在だけれどなぜか気になってしまったり、突然気になり出す相手。その相手のことを考えることで、自分の「当たり前」が大きく揺さぶられたり、知らず知らずのうちに自分が「ふつう」ということへの価値観を決めつけてしまっていたことに気づかせてくれるのです。よく分からないと思っていた誰かを一歩深く知ることは、思いもかけない形で自分の世界を広げてくれること。登場人物の多様性と柔軟さに、もっともっと自由に生きていいんだ、という希望がみえてきます。
現在6冊刊行されている「君色パレット」シリーズは、現在、児童文学の世界を引っ張る人気の書き手の方たちが揃って執筆されているところも大きな魅力です。1話1話完結の短編には、作者それぞれの魅力が詰まっていて、全く違った色相を見せてくれるところにも多様性が感じられます。好きな作家さんを見つけるきっかけや、気に入ったお話があったらそのお話を書いた作者の他の本を調べて読んでみるなど次の読書に繋げるきっかけにもしてみてくださいね。
シリーズ第2弾で描かれるのは「すきなあの人」、「きらいなあの人」、「なんでもないあの人」……あなたはどの関係性が一番気になりますか? また自分に一番影響を与えてくれそうなのはどの人でしょうか。
多様な時代を生きていくみんなへの作家からの温かなエールが詰まったシリーズ、気になる関係性から、または気になる表紙の色から、自由に選んで手にとってみてくださいね。自分の感情や周りの人の感情の複雑さに敏感になっていく小学5年生ぐらいから中学生に。また大人の方にもおすすめのシリーズです。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
赤いスカートで現れる有名人、ほとんど話したことない元同級生、情けないおじさん、黒板に予言を書く隣の席の人。多様性をテーマに『なんでもない人』を描く4つの物語。
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