「きらいなあの人」……。「きらい」と聞くとなんだかドキッとしませんか。でも不思議と気になるのが「きらい」という感情。 この本に収録されている4つの物語には、さまざまな「きらい」の思いと、さまざまな「きらい」の関係が登場します。
なんでも早くできてしっかり者のオレが、忘れ物が多くすべてにゆっくりなアイツに抱く「きらい」、上から目線のオレ様態度でわたしに挑んでくる転校生への嫌悪感、自分の考えをはっきり言う帰国子女の転校生に感じるもやもや、友だちに合わせて言いたくもない言葉を言ってしまった自分に嫌気がさして消えようと思う主人公。
絵の具からいろいろな色が出現する「パレット」のように、4つの物語に出てくる主人公自身もユニークなら、どうしても感じてしまう「きらい」の感情や相手との関係性もさまざま。けれども「きらい」の感情にはどこか共感できるものが多いのではないでしょうか。そして「きらい」な相手こそが一番自分を知るきっかけになるような気がしてなりません。4つの物語が教えてくれるのは、「きらい」だからと避けたり拒絶するのではなく、一歩向き合ってみた時に起こる思いもかけない発見。相手を知ることは、自分を知ることでもあり、世界をぐんと広げてくれること。「きらい」というマイナスの感情から始まる物語が、温かななにかへと変わっていく様は、希望をも見せてくれるのです。
現在6冊刊行されている「君色パレット」シリーズは、現在、児童文学の世界を引っ張る人気の書き手の方たちが揃って執筆されているところも大きな魅力です。1話1話完結の短編には、作者それぞれの魅力が詰まっていて、全く違った色相を見せてくれるところにも多様性が感じられます。好きな作家さんを見つけるきっかけや、気に入ったお話があったらそのお話を書いた作者の他の本を調べて読んでみるなど次の読書に繋げるきっかけにもしてみてくださいね。
シリーズ第2弾で描かれる「すきなあの人」、「きらいなあの人」、「なんでもないあの人」……あなたはどの関係性が一番気になりますか? また自分に一番影響を与えてくれそうなのはどの人でしょうか。
多様な時代を生きていくみんなへの作家からの温かなエールが詰まったシリーズ、気になる関係性から、または気になる表紙の色から、自由に選んで手にとってみませんか。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
忘れ物が多いアイツ、上から目線のオレ様、ちょっとやりにくい転校生、消えていなくなってしまいたい自分。多様性をテーマに『きらいな人』を描く4つの物語。
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