少年・ネルロと愛犬パトラッシェの絆を描いた名作『フランダースの犬』。大人の方は印象的なラストシーンを思い浮かべる方も多いかもしれません。でも子どもたちはまだ『フランダースの犬』と聞いても知らない子がほとんどではないでしょうか。
そんな『フランダースの犬』にこれから出会う子どもたちにおすすめしたいのが、こちらの一冊です。
ネルロは、足が不自由なダースじいさんと、フランダースの小さな村のはずれに暮らす少年。貧しい暮らしながらも、二人は人一倍優しい心を持って暮らしていました。そんな二人はある日、道ばたで死にかけている大きな犬を見つけます。犬使いの荒い金物屋にろくに飲むもの食べるものも与えられずひどい扱いを受けた末に捨てられたのでした。
ネルロとダースじいさんは、犬を家に連れて帰り、パトラッシェという名前をつけ、つきっきりで介抱にあたります。だんだん元気を取り戻したパトラッシェはダースじいさんの牛乳運びの仕事を手伝うようになり、ネルロとはいつも一緒でまるできょうだいのように仲良しになっていきました。
ある日パトラッシェは、ネルロが絵かきになりたいという思いを持っていることを知ります。町の大聖堂にある大画家ルーベンスの二枚の大作を心から見たいと望んでいることも。そんな中、町で開かれる絵のコンクールに入選をめざして絵を描き続けるネルロ。絵かきになるという夢は、冬の寒さが厳しい時も、町の人からつらくあたられた時も、ネルロの心の支えになっていたのでした。そして入選発表のクリスマスイブがやってきて……。
作者はイギリスの女流作家のウィーダ。『フランダースの犬』は1872年に出版され、それ以降、イギリス児童文学の世界的な名作として、世界中で読み継がれてきました。そのお話を「きつねのこ」シリーズをはじめ多くの作品の功績を残された日本の児童文学作家、森山京さんが日本語の文章にし、絵はいせひでこさんが描かれました。いせひでこさんは、実際にこの物語の舞台であるベルギーの北部フランダース地方への現地取材を行い、100年以上前に生きた原作者ウィーダの作品に込めた思いに寄り添う姿勢で絵を描かれたそうです。それが1998年のこと。今回はその作品が25年の時を経て、現代の子どもたちに向けてさらに読みやすい「ビジュアル特別版」として蘇りました。全ての挿絵はカラーで、それぞれが1枚の絵画のようにずっと眺めていたくなるような美しさ。異国の情景があたかも自分もそこにいるような臨場感で伝わってきます。またいつもネルロを背後からそっと見守るパトラッシェの姿が印象的です。いかにネルロとパトラッシェの心が深く結びついていたのか、その心の絆が伺い知れるのです。 巻末には、森山京さんによる作品解説とともに、物語の大事な鍵となっている、画家ルーベンスの2つの絵がカラー写真で掲載されています。作品のさらなる理解を助けてくれることでしょう。
これまでイメージとして持っていた『フランダースの犬』の印象とはまた違う側面からも眺めることのできる一冊。大人の方もあらためて出会い直しながら、周りにいる子どもたちにこの名作を勧めてみませんか。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
感動の名作を子どもたちへ 森山京×いせひでこ 25年の歳月を経てよみがえる傑作『フランダースの犬』
・低・中学年におすすめ! 上質な美しい絵で味わえる「フランダースの犬」 ・文・森山京×絵・いせひでこ 心に響く文章と圧巻の絵で、涙なくして読めない物語 ・現地取材も行った珠玉のカラー挿絵 ・ルーベンスの絵のカラー写真入り解説付き
画家になることを夢みながら、貧しい生活のなか懸命に生きる少年・ネルロと愛犬パトラッシェ。二人の絆を描いた名作『フランダースの犬』を森山京氏の名訳と、いせひでこ氏の珠玉のイラストで子どもたちへ。現地取材を行って描かれた絵は圧巻。巻末には、森山京氏による<作品解説>を収録。物語のポイントとなるアントワープ聖母大聖堂のルーベンスの2つの絵をカラー写真で掲載しています。 はじめてフランダースの犬を読むお子さまや、久しぶりに物語を読んでみたくなった大人の方にも、おすすめの一冊です。
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