虫たちがくらす小さなマンションを知ってますか? 名前は「メゾン・ド・グラスホッパー」。でもくらしている虫たちはみんな「バッタマンション」と呼んでいるそうなので、「バッタマンション」と呼ばせてもらうことにしましょう。
「バッタマンション」は、三かいだてで、部屋はたったの六つきり。 まず登場するのは、102号室に住むキリギリス。心配性のキリギリスは、マンションのひびが気になって、ひびが十本になったら、マンションを出ていくというのが口ぐせです。今ではもう九本になっているひびでしたが、そこに立派な一軒家に住んでいるカマキリがやってきて、新しいひびを見つけたというのです。驚いたキリギリスは、オンブバッタの大家さんのところへ急ぐのですが……。
その他、マツムシ、クワガタムシ、モンシロチョウ、イトトンボのご近所さんが登場して、みんなそれぞれに個性的。最初はちょっと困ったご近所さんかな、 という雰囲気が漂いながらも、それぞれのやりとりの中にユーモアが生まれて。困ったことがあっても助け合いながら関わっていくことで、相手の知らなかった部分を発見することもあったりと、やさしい関係が描かれていきます。ちょっとキリギリスさんの負担が大きいようではありますが、みんなに頼られるのがまんざらでもなさそうなキリギリスさんです。
個人的なお気に入りは、「すてきなごみおきば」のお話。マツムシが毎月楽しみにしているという「じゃぶじゃぶの日」を羨ましく思っていたら、キリギリスが毎朝チェックしている「ごみおきば」の「ごみ」と関係があったり、また、その「ごみ」とも関係して、マツムシがキリギリスの部屋に招かれる場面が最高です。さらに「とんぼブックス」の店内の様子や、クワガタムシのあめを切る姿など気になる場面が盛りだくさん。この本を読んだ人同士で、それぞれの好きな場面を語り合ってみたくなってしまいました。
そして特筆すべきは、なんといっても挿絵の美しさと楽しさ! 北川佳奈さんが紡ぐユーモアたっぷりの温かみのある世界にぴったりの挿絵を描いているのは、少し不思議でクスリとしてしまう、物語性のある紙雑貨制作をしているという九ポ堂(きゅうぽどう)さん。 表紙の絵を見ただけでも、じゅうたんや時計が葉っぱになっているところや、照明がお花のつぼみになっているところ、二人がお茶のおともに食べているものは何だろう、など気になる部分が山ほど。それが本の中のあちらこちらに出てくるので、お話を読みながら、絵のすみずみまで眺めるのが楽しくて仕方ありません。大部分は緑と黒の繊細な線画で描かれているのですが、美しいカラー絵で描かれる表紙と最後の見開きページは圧巻です。
すべての漢字にルビが振ってあるので、低学年の子どもたちからおすすめの易しい読み物。しかし中学年以上の子も、そして大人も夢中になってしまう人が続出しそうな予感です。読み終えたら、ぜひまわりの人たちにも教えてあげてくださいね。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
虫たちがくらす小さなマンション、「バッタマンション」。メゾン・ド・グラスホッパーというりっぱな名まえがあるのですが、くらしている虫たちはみんなただ「バッタマンション」とよびます。
住人のキリギリス、マツムシ、モンシロチョウたちの、ささやかで愉快な日々をお届けします。
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