2007年初めの出版は詞華集「啄木のうた」です。ご存知啄木はひどい貧乏でした。 格差社会は今に始まったことではありません。筆舌に尽くせぬほどの貧乏です。 その上病気持ちで家庭不和もあるのですから、まさに三重苦でした。 そのなかから、啄木は日本の文芸史上に燦然と輝く「一握の砂」と「悲しき玩具」を生んだのです。
「啄木のうた」ではこの二冊の歌集の中に24の扉(芝居の幕のようなもの)を設け、 その扉の歌のテーマに関連する歌を紹介しています。たとえば
「はたらけどはたらけど猶 わが生活楽にならざり ぢっと手を見る」
を一つの扉にして
「何事も金金とわらひ すこし経て またも俄かに不平つのり来」 とか
「月に三十円もあれば田舎にては、 楽に暮らせると― ひょっと思へる」
などの歌を紹介しています。
そして、この扉(幕)をつなぎ合わせることで、啄木の生涯を演出しよう、というのが 「啄木のうた」編集の考え方でした。
いくつになっても、気弱で見栄っぱりで甘えん坊。日本の男たちに共通する悲しみを 一人で背負って、今もわれらの啄木はどこかの海辺で、泣きぬれて蟹と遊んでいるのでしょう。
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