世界中にいる自分と同年代の人は、どんな生活をしていて、どんなことを考えているんだろう? 時々ふと、そんなことを考えます。まだ行ったことのない国、見たことのない景色、考え方や生活の習慣もずいぶん違うんだろうな。でも意外と、大切なものは同じかもしれません。
南アメリカにあるコロンビアのメデジン市。山の中腹に広がる「バリオ」と呼ばれる貧しい家が建ち並ぶ地区に、10歳のカミーロは住んでいます。 家は泥の壁なので、雨が降ると崩れ、塗り直さなくてはなりませんし、水道も電気も止まることがしょっちゅうです。昼間から酒びたりのお父さんは、お酒を買ってこないと暴れて家族に暴力をふるいます。でもカミーロは谷に広がる町並みや、緑の山々が大好きですし、大親友のアンドレスと一緒にいれば、なんだって乗り切れるのです。 数カ月前、カミーロたちの住む山の斜面にピカピカの図書館ができました。ある事情から近づくことを恐れていたカミーロでしたが、ある日初めて、図書館に足を踏み入れます……。
政府と反政府のゲリラ組織との武力による対立、麻薬の問題など、コロンビアという国が抱える苦しさは、直接描かれてはいないものの、ふたりの少年を取り巻く過酷な環境からかいま見えます。学校に行かせてもらえなかったり、カミーロの大好きなおじさんは麻薬の取引にかかわって、銃で撃たれて死にました。どんなに苦しくても、盗みはよくないと言い張る、心優しいアンドレスもまた、辛い現実を抱えています。
でも、未知の扉である「本」と、ふたりを気にかけてくれる司書のお姉さんとの出会いで、ふたりの世界はこれから変わっていく予感に満ちています。どんなに大変であっても、自分で切り開ける道もあり、必ず見ていてくれる人がいる、と信じさせてくれるのです。
どんなにつらいことがあっても、自分の暮らす地を愛するカミーロが大人になったら、みんなが暮らしやすい国を作ろうと奮闘するかもしれません。外の世界に好奇心をもち、目を向けつづけているアンドレスのような子と、いまこの本を読んでいるあなたは、いつか一緒に仕事をすることになるかもしれませんね。これから先、人々の心の中の国境はなくなり、世界はつながっていく――そんな希望を感じます。これからの世界を創っていく、すべての子どもたちに、自由な想像力をはばたかせながら読んでもらいたい物語です。
(光森優子 編集者・ライター)
数か月前、カミーロたちの住む山の斜面に図書館ができました。どこにいっても図書館の話題でもちきりです。空からズドンと落ちてきたまっ黒い岩のような建物は、山の斜面で奇跡的にとまって、空にむかって口をあけている岩のようです。でも、カミーロは図書館のそばにくるといつもくるりと背をむけます。そのわけは……。
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