秋が終わり、寒さが厳しくなってくると、最初の氷が見つかる。それは、うっすらまくが張ったように薄い氷で、触ると割れてしまう。 本格的な冬の訪れとともに、氷はだんだん厚みをましていき、やがて畑がこおり、小川がこおり、池がこおり……そして、庭にスケートリンクができる! 子どもたちは青空の下、銀のブレードをきらめかせながら、思う存分スケートを楽しむ。
スケートのシーズンが訪れるワクワクする気持ち、家の庭に家族総出でスケートリンクをつくる大変さ、地道な氷の整備と手入れ、パーティ、姉妹の思い出、夢……。 五感をとぎすました豊かな文章からは、冬の匂い、色、音、手触り、肌を刺す空気の冷たさまで感じるようです。そして繊細で美しい絵が、冬という銀色の季節と家族の思い出の温かさを伝えてくれます。
姉妹が夜のスケートをするシーンはまるで映画のワンシーンのよう。チカチカまたたく星、すみわたった冷たい空気。静かな夜、月光の下でふたりの少女が、氷の上をすべります。ジャンプやスピン、8の字すべり。頭の中で大スタジアムで大勢の観客に囲まれていることを空想しながら……。
昼間、子どもたちが遊んだ氷は、きずや穴だらけ。整備のために水をまくお父さんが見せてくれるワンマンショーも印象的です。ほうきをパートナーに見立ててワルツを踊ったり、雪のふきだまりにわざとつっこんでみせたり。 そして、お父さんの冬の最高傑作、完璧な氷ができたときに開催される、スケートパーティ。お楽しみは、リンクのそばでマシュマロを焼く小さなたきび、たっぷりの温かいココア、ポップコーン。 お父さんの教え子の大学生たちより上手にすべることができたときの姉妹の得意そうな笑顔! 目に浮かぶようですよね。
季節の移り変わりとその楽しみ方、そして家族の物語を、こんなに美しいかたちで本にできるなんて……とうっとりするような一冊です。 そして、最後の氷は、本書の読者にとっても銀色にきらめく宝物となるにちがいありません。大切な人にそっと渡したくなる、とっておきの一冊です。
(光森優子 編集者・ライター)
だんだん冬が近づいて、はじめの氷を納屋で見つける。初氷は、バケツの中の薄い氷。それから少し厚い氷。そしていよいよ、待ちに待った割れない氷ができる。わたしちはスケートぐつを持って、リンクに駆けていく……。たっぷりと冬を楽しむ、小さな家族の物語。清々しい冬の空気を思い起こさせる、手のひらサイズの小さな物語。『ないしょのおともだち』のマクリントックが繊細な絵を描いています。総ルビ。
私の記憶の中でスケートが出てくる児童文学で印象深いのは『若草物語』と『楽しいスケート遠足』です。湖や運河が凍ってそこでスケートができるということ自体、雪国で育ったことがない私にとっては未知の世界。
そして今回読んだ『12種類の氷』もスケートが出てくる児童文学のラインナップとして私の記憶に留まることでしょう。
お話の中に出てくるバケツの氷は、子どもの頃外に出してあったバケツで経験済みなことなので懐かしく感じました。ただ、息子にはそうしたことは経験させていないので、この冬ベランダに水を張ったバケツを出して経験させてみたいと思いました。
「黒い氷」というのは聞き慣れない言葉で「雪がふる前の急な寒さで氷ついた水のこと」だそうです。
そして雪が降ったらリンクを作るというところでわくわくとした気持ちになりました。
スケートをした後の荒れた表面をお父さんが茶目っ毛たっぷりに氷を整える一連の作業をする場面には思わず笑ってしまいまして。
読みながら氷を通して冬の自然を味わいつくしている気持ちにもなりました。
カバーの説明を読んでいたら、バーバラ・マクリントックの翻訳はこれで9冊目なのだとか。
バーバラ・マクリントックは大好きな絵本作家で、新刊が出るたびに楽しみにしています。
福本友美子さん、マクリントックを日本に紹介して下さりありがとうございます。 (はなびやさん 40代・ママ 男の子11歳)
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