『サラバ!』で第152回直木賞を受賞したその年、受賞作家西加奈子さんは一冊の絵本を上梓しています。
それがこの絵本。
最近の絵本業界では西さんのように小説の世界で名をなした人が文を書くということがよくあります。その場合は大抵絵は絵本作家の方が描くことが多いのですが、西さんのこの絵本は文だけでなく絵も彼女が描いています。
そういうことでは純粋に西加奈子さんの絵本といっていい。
真っ暗な暗闇に誕生した命。
ページ一杯黒の世界で、何ごとが始まるのか不安です。
次第に色鮮やかな世界にそれは変わり、そこが海の世界だとわかってきます。
そんなところにずっといたいと思うけれど、「きみのいたばしょもすてきだよ」と暗い世界に戻ってみて、鮮やかに発光する生き物たちにはっと気づかされる。
自分が生まれた場所も素敵だということに。
そんな絵本の「あとがき」に西さんはこう綴る。
「光がささなくたって、海は美しいのだ」と。
つまり、私たちは綺麗な海とか色が素敵な魚だけをつい美しいと思ってしまうが、そういう通り一遍の見方ではなく、ものごとを見た方がいいと教えてくれている。
「友達がいなくても、夢がなくても、経験値が少なくても、恋をしていなくても、その人が生きている限り、それはかけがえのない「その人」の人生だ」。
この「あとがき」だけでも読む価値がある。
いや、やはりこの絵本だけで多くのことがあぶくのように浮かんでくる。