天照大御神が須佐之男命の暴力行為により、岩戸に引きこもった。世界に太陽が無くなり、困った神々が知恵を絞って世の中に光を取り戻す…日本の神話で、わりとよく知られた物語。
素朴で生き生きとした絵は、絵巻物のように横長で、古代の世界を十分体験させてくれる。
このシリーズ、あとがきも非常に豪華で、文章担当の舟崎氏と画家の思いや考え、参考資料などが収められている。大量の資料を読みこなし、神話の世界を生き生きと再現した両者の努力に、頭が下がる思いだ。興味を持った人は、ここから別の資料や物語に旅立つことができる。
子どもの頃も何かの機会で、このあまのいわとの物語を知る機会があったと思うが、あまり細かいところは忘れてしまっていた。改めて、岩戸に隠れる原因となった出来事などを順番に見ていくと…
崩壊家庭で精神的に不安定な弟と姉が、周りに迷惑をかけまくる話のように思えてきた。
非常に個人的な解釈で申し訳ないが、二人の両親は死別&事実上の離婚のようなものだし、兄弟は離散、親類縁者同士で殺し合いやもめごとも多い。弟は極度のマザコンで、かつワガママで暴力的。その後のなりゆきも、英雄的な活躍もあるものの、対人関係に問題を起こし孤立。
姉の方は、優秀だと周囲に褒められているが、身内の問題を解決する根性がない。弟が暴れるのを止めるどころか、無視し(そもそも兄弟仲が悪いらしい)、さっさと引きこもって自分のやるべき仕事も全部放棄してしまう。チヤホヤされて期待されているが、汚い仕事はしない(できない)優等生、といった印象。
この一家の不始末は、結局、近所の御隠居さんとか、町内会の人とか、親類縁者がしりぬぐいする。なんだか、現在でもよくある「身内の不始末を保証人が処理する」という展開に似ている気がする…
しかし、後始末組もしたたかで、問題解決するついでに自分たちも楽しんでしまう。大宴会&演芸大会(ストリップ踊り)で世界を救う、という、壮大なユーモア。悲惨なことがあっても、楽しいことがあっても、とりあえず酒を飲んで騒いで祭りをしないと気が済まない国民性?!大騒ぎすると、スカッとして、それまで思い煩っていたことが、結構どうでもよくなるのだろう。
個人的には、太陽を担当している神様(姉)なんだから、もっとしっかり弟のダメな部分を叱って欲しい。(天変地異が起きるのか?)
弟は、いい年こいて、いつまでもワガママしてないで、大人になって欲しい。暴力で気晴らしをするのはやめて欲しい。
このような、人間の愚かな部分は、古く神話の世界から引きついでいるものなのだろうか…なんだか、不条理な話で、妙に心に残る。神様といえど、全能でも万能でもなく、欠点がたくさんある。そこが面白いが、周りのとばっちりを受ける人たちは大変だ。
この本を読むと、いろいろな人がいろいろな風に余白の部分を想像して楽しめると思う。
年齢問わず、一度読んでみて、不思議で不条理に満ちた神話の世界を体験してもらいたい。