アンデルセンの作品は、「マッチ売りの少女」・「雪の女王」等、クリスマスの近いこの季節に似合うものが多いですね。
主人公がほとんど亡くなる結末も多く、この作成当時独特のドキリとする残酷な表現も躊躇うことなく使われています。
グリム作品のような伝承説話と言うよりは、創作作品がほとんどですが、今読み返して見ても信仰や教訓が背景に見られる作品がやはり多いと思います。
足を切り落とされるという場面が嫌われるのか、この作品もしばらく出版界から遠ざけられていたのか、あまり絵本作品が見あたりません。
降矢先生の絵で久々にこの作品に再会し、な〜るほどこういうことだったのか〜と合点がいきました。
少女の頃の私は、クルクルクルクルまわり踊り続ける主人公に気を惹かれ、一方母はおそらく足を切り落とすシーンにドキリとしたのでしょうね。
作品は、母親とカレーンとの悲惨な生活も靴屋に初めて恵んでもらったくつの場面も割愛され、富裕な老婆のお屋敷へ養女として入るところから始まります。
堅信の儀式にそぐわない赤いダンス靴を、目の悪いおばあさんを欺き手に入れたカレーン。
美しい靴を履いたカレーンは、踊る靴に魅入られ、人として自分のすべきことを忘れ、気付いた時には大切なものを失います。
それでも、彼女を踊るよう動かしてしまう赤い靴の魔力。
目先の楽しい事・美しいものに心奪われる事が、どんなに恐ろしく罪深い事であるかを訴えています。
享楽や美しさを貪欲なまで追求する事が、肯定されている今のご時世では、選書する大人が手を引っ込めてしまうのかもしれません。
しかし、あえて私は楽しく愉快で優しくてというような主人公とは異なるカレーンのような弱くて罪深い現実的な等身大の人間像の作品も多感な年頃に出会わせたいと思います。
大人の方がご一読し、その後を決めていただければと思います。