1925年(大正14年)に生まれた吉田一子さんの実話です。
吉田さんは 2歳の時にお母さまを亡くされ、よそにもらわれました。
7歳頃から子守をしていたので学校に行けず、読み書きも出来ません。
この絵本では、長野ヒデ子さんのユーモアをまじえたイラストで
読み書きの出来ない不便さが描かれています。
吉田さんは読み書きが出来なかったため、
ラーメンを食べようと思ってもメニューが読めなくて諦め、
銀行で引き出しの手続きをしようとしても
自分の名前すら書けないばかりに、お金を下ろすことさえ出来ない。
駅で落書きを見て、ビックリすると同時に悲しくなったことなど。
そんな吉田さんは還暦を過ぎてから、識字教室に通い始めました。
病院で自力で書いた名前を 看護師さんが呼んでくれた時、
どんなに嬉しかったかが、とてもよく伝わりました。
あとがきに識字教室の様子や、吉田さん直筆の「ひらがな日記」が
掲載されています。拝読しているうちに、自然と目頭が熱くなります。
日本は世界的に見ても、識字率がかなり高いだろうと思いこんでいましたが、
部落問題などから学校に行けなかった方が、少なからず いらっしゃるのですね。
1990年が国際識字年と制定されて20年近く。
読み書きが出来ないばかりに苦労を強いられる人がいなくなることを願います。
長谷川義史さんの作品「おたまさんの おかいさん」同様、
大阪が舞台となったお話で、関西弁で書かれています。
そして、どちらの話も 部落問題や戦争などの複雑な時代背景に左右されて
自由や通学などを手にすることが難しかったことが伝わって胸が痛みます。
戦争もなく、選挙権や自由を簡単に手にしている私たちは、
当然と思っている身の回りのことに、もっと感謝すべきだと考えさせられました。
自分の予測外の大変な状況の方がいらっしゃるのだということを知るために
ぜひ子ども達に読んで欲しい1冊です。