子どもの頃だから、昭和30年代だが、「コロッケの唄」というのがあった。
この絵本を読んで、その当時の歌を調べてみると、五月みどりさんが歌ったものが出てきた。作詞作曲は浜口庫ノ助さん。
「こんがりコロッケにゃ 夢がある/晴れの日 雨の日 風の日も/(中略)/今日もコロッケ/明日もコロッケ/これじゃ年がら年中/コロッケ コロッケ」
「今日もコロッケ/明日もコロッケ」という歌詞の部分が記憶にある。
こういう歌が唄われたぐらいだから、日本中でコロッケを毎日食べている人が多かったということだろう。
おやつにコロッケを食べていたように思う。
確か5円ぐらいではなかった。
そんなコロッケだが、あれから半世紀経っても、いまだに愛される食べ物にちがいない。
この『コロッケです。』は2015年に刊行された、ほかほかの作品なのだから。
作者の西村敏雄さんは1964年生まれの絵本作家。
その絵柄はどちらかといえば、ほんのり系。それがコロッケという題材に合っている。
町のコロッケ屋さんの店先から、ある日、「どこかあそびにいきたいな」と一個のコロッケが逃げ出すところから、始まる。
まるで、「およげ! たいやきくん」のようなシチュエーション。
海に飛び込んだ「たいやきくん」と違って、コロッケは子どもたちがキャッチボールをしている公園や動物園の猿やまにまぎれこんだり。
町から離れて村のじゃがいも畑にも行ってしまう。
そして、最後にはロケットに乗って、月面まで。
最後の場面は月の上で舌を出しているコロッケだが、それを見上げている人々の表情がいい。
誰も怒ったりしていない。
ちょっとはびっくりしているが、何故かにこにこしている。
それくらい、この国では愛されている食べ物なんだ。
そんな町の人々を見て、この絵本が妙に懐かしいわけがわかった。
彼らが着ている服が、昭和風なのだ。
この物語は、西村さんが子どもの頃に夢見たままなのかもしれない。
きっと、西村さんも「今日もコロッケ/明日もコロッケ」で育ったのだろう。