2019年10月に亡くなったイラストレーターの和田誠さんのたくさんの仕事の一つに
「絵本」があります。
絵本での大切なこととして、
「まず絵がいいこと。上手じゃなくてもいいから、魅力的な絵。
面白い流れがあること。物語であっても、感覚的なものであっても、
あとは展開させるデザイン」と話しています。
『ぬすまれた月』は、そんな和田さんが初めて手がけた自作絵本です。
1963年のこと。
その時のことを和田さんは後年こう語っています。
「画家がお話も作るというのが条件でした。ぼくはまだ駆け出しのイラストレーター。
作と絵の両方をやるのは初めてで自信もなく(中略)ドキドキしながら参加した」と。
本人はそう言いますが、そんなことはありません。
この絵本はとてもうまく出来ていて、
和田さんの言葉を借りるなら「展開させるデザイン」がずば抜けています。
柱になるのが、空から月をとってきたお話。
そんな大事な月がある時盗まれて、さまざまな人の手にわたります。
ご存じのように月は時々で姿かたちを変えるので、
そのあたりが物語を面白くさせています。
こんな物語の前後に、月のかたちであったり変化がどのように起こるのかを
巧みなイラストで説明していきます。
そのバランスがとてもいい。
最初の刊行以来、何度かリニューアルされながら読み継がれているのも、
絵本としても魅力があるからです。
そう考えると、和田さんにとって「絵本」はとっても大切な仕事だったに違いありません。