小学生のとき、アゲハチョウを卵から育てたことがあります。巣は、空気穴をたくさん開けたいちごパックを二つ合わせたものでした。
みかんの葉をムシャムシャ食べて幼虫はどんどん大きくなりました。指先でつんつんと突っつくと、頭と胸の真ん中あたりについているツノから、独特の臭いがする汁を出して私を驚かせました。
そして、さなぎになり、突然、アゲハチョウになったのでした。
はねを伸ばしたアゲハチョウは、ベランダから飛び出して行きましたが、すぐに隣のマンションの壁にとまって動かなくなってしまったのです。
どうして飛ばないのか、育て方が悪かったのか、誰かが見つけて捕まえたりしないだろうか、そのまま死んでしまうのではないか、私は心配で仕方なくなり、泣き出してしまいました。
前置きが長くなってしまいましたが、『トムとことり』を読んで、自分が育てたアゲハチョウの話を思い出しのです。こちらが懸命になって、相手のことを世話をしているつもりでも、本当に相手と心を通い合わせているかどうかはわからないのです。ただ、相手が望んでいるであろうことをしたやることしかできないのです。
トムもことりの様子が変わっていくのを見て、ことりを大空へ逃がしてやることを決めました。それを決めたときのトムの気もちは、とても苦しく複雑だったことでしょう。
テキストのない、絵だけの絵本です。
だからでしょう、トムの気もちに、いっそう強く寄り添うことになりまし。トムのことりも、私のアゲハチョウも、大きく青い空を飛んでいってくれたにちがいないと願っています。