家族で世界一周の航海を続けていた少年マイケルが、ヨットから海に投げ出されてたどり着いたのは旧日本軍残留兵ひとりが住んでいる小島でした。
愛犬ステラと二人での漂流生活が、一人の日本人に支えられました。
マイケルに距離を置く日本兵ケンスケは、通りかかる船に助けを求めるマイケルの邪魔をします。
自らはこの島に住んでいることを知られたくないのです。
密猟者からオランウータンを守るケンスケ。
クラゲに刺されてひん死の状態になったマイケルを助けるケンスケ。
マイケルとケンスケが共同で生活を始めると、この旧日本兵の実像が明らかになってきます。
マイケルの言葉に気持ちを動かし、日本帰国を考え始めるケンスケでしたが、最後にはマイケルに10年間は自分の存在を公表しないでほしいと約束して、自らは島に残るのでした。
これは、戦後30年も過ぎた後にフィリピンで発見された旧日本兵の横井庄一さん、小野田寛郎さんにヒントを得た物語です。
しかし、ケンスケはこの二人と違って、敗戦を知りながら長崎原爆で家族は死んだのだとのあきらめから一人静かにこの島で生きていくことを決めているのです。
これは愛国でも、軍人訓に記された「生きて帰ることの恥ずかしさ」でもありません。
この世捨て人状態と旧日本兵像を重ね合わせるのには少し違和感を覚えましたが、二人のまったく違う人間の共存をテーマとして展開される物語は、心の動きと互いの駆け引きが強く心に残りました。
物語の前半はマイケルが両親と三人でヨットで世界一周の航海をするに至った経緯と、そのアドベンチャーが書かれています。
そこに出てくるのは家族の絆。
物語の結末で家族の絆は回帰するのですが、ケンスケの家族に対する思いもダブルテーマとして印象深いのです。
ケンスケと家族の絆。
長崎に残した妻も子も生きていたのです。
マイケルはケンスケと約束した10年を経てから、ケンスケの家族と連絡を取ります。
父の記憶のないオガワ・ミチヤ。
ケンスケの妻もマイケルが「ケンスケの王国」にいたころは健在だったのです。
この物語でケンスケの家族については余韻を残すだけです。
ケンスケのその後と彼の家族のこと、マイケルのその後。
モーパーゴは、その後の話については読者にゆだねたようです。