宮沢賢治の朴訥な表現と、自然界の掟、生きるためにやむを得ぬ生業とが絡み合って、とても重厚で深みのある作品だと思います。
熊を殺すことを生業としている、小十郎はほかの生き方ができないのです。
死んだ家族と自然から糧を得られぬ環境。
やむを得ず熊を殺し続けます。
熊から得た熊の胆と毛皮は、悲しいほどの少額の金銭で買い取られますが、小十郎は他に生き方を知らないのです。
小十郎が熊に対する優しさと、生業との矛盾がこの物語のテーマ。
そして熊にしても小十郎に畏敬の念をもって向かいます。
殺されることへの諦念の中に憎しみがないのが不思議です。
ただ、熊たちは小十郎を殺してしまいます。
小十郎の死後の世界と、熊たちが小十郎の死骸を崇める儀式のような表現。
宮沢賢治の哲学とでも言えるのでしょうか、とても崇高なものを感じました。
組み木絵という技法の中村道雄さんの絵は工芸の世界です。
ただ、それぞれの世界がそれぞれに強すぎて、小十郎と熊の関係のようには物語の中で絡み合っていないように思いました。
ちょっと違和感を覚えるような言い回し。
理解できるのは、高学年以上でしょうか。