小さな子どもを見ていると、些細なきっかけからすぐに、ファンタジーの世界に迷い込むことができると言う羨ましい特質を持っていることに驚かされます。
かって子どもだった自分も、いつでもテーブルの下やカーテンの陰に隠れて“自分の世界”を作り出すことが出来た・・・
おやつの時間に虎がお家を訪問してきたら?
そんなバカな?!
少し大きくなった子どもなら大笑いするところですね。
けれども幼い子どもにとっては、それは宇宙への旅と同じくらいの素晴らしい出来事であり、同時に豆粒ほどの出入り口からいつでもどこでもワープすることのできる、日常とほんの隣り合わせの事件なのです。
ごく当たり前に紳士的にソフィーの家に上がりこんで、食べ物と言う食べ物を全部平らげてしまった虎は、最後に水道の水まで全部、飲んでしまいます。
超ナンセンス!
これまで口をへし曲げて「虎がおやつを食べに来るなんて・・・」と悪たれていた子でも、ここのところを読んだら思わず「へぇ!!」と目を輝かせるに違いありません。
さあ、お父さんが帰ってきました。食べ物は何もありません。お母さんは困ってしまいました。そこで父さんはある提案をします・・・
この絵本の読後感は「幸福な家族」が象徴するものです。
もちろん、家に虎が訪ねてきたり、虎とお茶を飲んだりするどころか、誰もが象徴的に幸福な家庭に生まれ育つと言うものでもありません。
けれどこの絵本の素晴らしさは、かって幼い頃、こんなことがあったような、こんな幸せがあったような、そんな気分にさせられてしまうところなのではないでしょうか。
挿絵の虎は上品で優美なペテン師そのもの。
煙に巻かれる心地よさ、これは子どもは感じているかどうか、大人である私の感覚かもしれません。