この絵本を最初に読んだとき、あじさいの花の色がきれいで、梅雨の季節にはぴったりだなと思いました。
しかし、読んだあとに、どうしても心にひっかるものがあり、幾度か読み返しました。これは私だけの感覚なのかもしれません。しかし、どうしても気になるのです。
あじさいから花をもらったのんちゃんは、ねこやあかちゃんやとりにわけてあげます。
このとき、私の目にうかぶのは、1歳半くらいの子どもが、周囲にいる人たちに、はい、はい、とくりかえし自分の持っている物を手渡しているシーンです。きっと大人がもらっていたなら、「ありがとう」とか「のんちゃんはやさしいね」などとほめるので、ますますよろこんで同じことを繰り返す、そんな光景です。一種の遊びですよね。
しかし、あじさいのおかげで、犬から逃げることができたのんちゃんが、自分の帽子をあじさいにあげることは、あじさいをわけてあげることは異なる行為に思えます。これはただの遊びではなく、自分の持っている物をお礼にあげるという「自分」を意識的に抑えた行動ではないかと思うのです。
そのあたりを渡辺三郎氏はよく書き分けられています。
ねこやあかちゃんやとりに花をわたすときののんちゃんは、微笑んでいますね。しかし、犬のときはどうでしょう。のんちゃんは犬が怖かったのでしょうね。遠くから「あげる」と言っているのんちゃんは、不安げです。そして、自分の帽子をあじさいにあげたときののんちゃんの顔は、どこか不満そうな表情をしています。自分のものを他者に分け与えるのは、のんちゃんにとっては、大変な出来事だったのだと思います。
深読みのしすぎかもしれませんが、現実の子ども行動や表情を思い出させてくれる絵本だと思います。
ぜひ、お母さんからお子さんに読んであげて欲しい一冊です。
【事務局注:このレビューは、2008年刊行に寄せられたものです。】