なかなか「痛い」物語です。村で雑貨屋を営む、ねこのジンジャーと猟犬のピクルズ。かれらはたぶん誠実で、そして心優しいのです。なのに、その優しさは他の動物たちにいいように利用されていきます。店は閉店に追い込まれ、そして、閉店した後にもドラマは続きます。
この閉店後の後日談の部分は、うっかり読み飛ばすとただの蛇足のようにも思えてしまいますが、ここが意外と深いような気がします。閉店後に出てくる登場人物は、3びき。もう一つの雑貨屋の女主人、ねこのタビタは、ライバルがいなくなったことで、すべての商品を値上げします。店を引き継ぐめんどりのヘニー・ペニーに、ヤマネはろうそくを売り始めます。この3びきは、それぞれ聖人君子でもなければ極悪人でもありません。ちょっとだけずるかったり、打算的であったりします。そして、客に文句を言われながらも店を閉めることなく続けてゆきます。
「ジンジャーとピクルズや」には、市井の人々の普通の暮らしが投影されています。その中では、誰も取り立てて立派な人物ではないし、人物が立派だからといって、必ずしも幸せになれるわけでもありません。人生の、ちょっと悲哀に満ちたビターチョコレートの味。これは、そんな物語だ、と私は思っています。