『ラプンツェル』は、かわいそうなお話でありながら、愛情と、欲望と、女心と、様々な人間の感性を取り込んで、いろいろに色合いを変えるグリム童話です。
ディズニーの世界でも取り扱われるようにロマンもあるのですが、一方で怖さと深みを感じる作品です。
ラプンツェルをモチーフにした小説がいろいろと出されているのも、ラプンツェルへの様々な思いと解釈があるからでしょう。
絵本での描かれ方も様々です。
そんな中で、私の「ラプンツェル」体験5作目となりました。
日本人の絵や再話と洋書の邦訳では大きな違いがあります。
洋書ではフェリクス・ホフマンの絵と、バーナード・ワッツの絵の新旧2作品は3つのパターンで話の内容はそれぞれに味わいが違うのですが、西洋の物語として描かれていました。
日本人の作品では内田也哉子文、水口理恵子絵の作品を読んでびっくりしたのですが、主人公ラプンツェルの心、感情にスポットを当ててとても大人なびた作品でした。
ラプンツェルのもとに通い続けた王子との間にははきりと大人の恋愛がありました。
そして、この天沼春樹訳、伊藤亘絵の作品です。
この絵本は何より伊藤さんの表現が芸術的であること、情景としての描き方ではなく登場人物の心情や表情にスポットを当てて、水口さんとは正反対の表現方法であることに特徴があります。
ペーパーレリーフという手法で描かれた絵は、立体感で登場人物をリアルに引き出しています。
文章はその絵を表に出すかのようになめらかで、マイルドな感じがします。
日本人が書いた絵は、グリム童話を日本人の感性に合うように、あるいは西洋的であることにこだわらない描き方できわめて日本人好みの表現になっているかのようです。
「ラプンツェル」ファンには、話を知っているということではなく、様々な「ラプンツェル」体験をしてほしいと思います。
テレビの映像でこの話を聞くとしたら、この伊藤亘版が一番かと思います。