かなり面白い。最初から話にぐいぐい引き込まれてしまった。読みものとしての面白さと、物語としての深さと両方を兼ね備えた傑作だと思います。
主人公は、ナポリ生まれのユダヤ人の少年。ベニアミーノ、渡米後は、ドム。9歳。そして、私生児。
彼は、母親の計らいで船に載せられ、アメリカに送られる。
知りあいが誰もいない苛酷な新天地で、彼は自分の運命を一人で切り開いていく。
9歳である男の子が、たった一人で、誰も知り合いのいない土地で、何故生き抜くことができるのだろう、というのが素朴な驚き。
それは、彼がイタリア系のユダヤ人であるということが大きいのかもしれない。生きること、生き抜くことが第一義の命題であるから。種を絶やさないためにも。
だから、その点が日本の子どもと根本的に違う点なのかと思った。
決定的な違いがあるとして、でも、、この本を読むことで、生き抜くために必要なこととは何かを学ぶことはできる。
主人公は、公教育は受けていない。けれど、生きるためにはどうするべきか、ということを叩き込まれている。
それは、人の役に立つことをすべき、ということ。
修道院の地下で、腐乱死体に慄きながら彼は、見事ワインを取ってくるし、母親と離れた不安の中でも、密航した船で船員のために働く、そして、渡米後の青果店で、野菜をきれいに並べて見せる。
よく見ること、聞くこと。
何より、仲間や味方をつくること。
そして、本当の仲間や味方は、信頼によって得ることができること。信頼を得るためには、誠実であること。
そうやって彼は、同じ浮浪児で年上のガエターノという一匹狼やパドローネによって搾取されているティン・パン・アレイ、青果店店主グランディネッティに出会っていく。
少年たちが協力してサンドイッチを小売して利益を上げていく様は、商売の面白みを感じさせ、読んでいるこちらまで気分が高揚してくる。
だが、 この話は単なる成功物語に終わらない。
搾取され、虐待されているというひどい状況にありながら、そこを逃げ出すことより、何物にも属さない全くの自由が怖かったというティン・パン・アレイの告白に胸を衝かれる。
主人公ドムは、そんな仲間のつらい現実を見ることにより、自分自身のつらい現実と再び向き合い、それを受け入れていく。
これは、失われた家族を、彼が自分自身の力で築き直していく話であるのかもしれない。
一般書にしてもいいくらい、完成度の高い作品なのではないかと思いました。