【内容】原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1839年ごろ刊行された作品)
お金持ちの商人が死に、息子が商売を継ぐが、浪費ばかりして財産を使い果たしてしまう。何もなくなった息子に、友達が古いトランクを与える。「何か入れるように」と言われるが、居れるものがないので、自分を入れる事にした。
すると、トランクが飛行機のように空を飛び、外国に向かい…
…その後の展開は、是非とも本を読んで楽しんで欲しい。奇想天外なお話。
【感想】
ずいぶん昔の話なのに、全く古臭さを感じさせない。設定を変えれば、今の時代でも十分にあり得そうな話だと思った。仕事で大成功した人の、子どもはろくでなし。苦労知らずで、お金を湯水のように使い倒すダメ人間。彼の良いところは、明るくて、積極的に人生を楽しもうとするところだろう。そのため、途中まではうまくいくのだが、最終的には手堅い幸せは手に入らない。
人生はそんなにうまくいかないもの。空飛ぶトランクで大幸運をつかみ損ねた男が、その後どうなったか、物語には書かれていない。だからこそ、いろんな想像をして楽しめる。今の時代でも、親の財産を使いつぶしたり、いろんな事業を立ち上げてはつぶしてを繰り返したり、途方もない計画をいつまでも追い求めている人はたくさんいる。時々、努力が実る人もあるけど、多くは、はかなく消えていく。派手な花だけ咲かせるだけで、後には何も残らない。それも、一つの生き方で、その人なりに人生を楽しめればそれでいいのだろう。(親類縁者は大迷惑だが)童話というよりも、人生教訓的に私は受け取った。
絵描きの腕前が素晴らしく、限られた色数で無限の世界を表現していて圧巻。特に、最後の場面が感無量だ。
どうでもいいつっこみだが、落ちぶれた友達にトランクをあげた友人の、ファンキーな感性が面白い。あまり実用的でも、すぐに役に立ちそうなものでもないものをプレゼントするなんて、素敵じゃないか。お洒落だ。