主人公のおじいさんは、絵描きさんです。
海山鉄道の山奥駅に、夏がすぎると毎年決まってやってきます。
周りのみんなは、おじいさんを、不思議な人だと思っています。
なぜなら、夏の終わりとはいえ山はまだ青々としているのに、紅葉している山を描くからです。
さらに不思議なのは、おじいさんが紅葉の絵を描くと、現実の山々が本当に紅葉することです。
それも、少しづつではありません。
とても短い時間でなるのです。
それにしても、このおじいさんは不思議です。
名前も住所も分かりません。声も分かりません。
それだけではなく、顔も分かりません。
絵本に描かれているおじいさんは、いつも後ろ姿や横向きの姿なのです。
1ページ目にだけ真正面のおじいさんが描かれていますが、帽子とひげに邪魔されて、やっぱり分かりません。
どんな顔かしら?
でも、分からなくてもいいような気がします。
なぜならおじいさんの人柄が、それぞれのページからにじみ出ていますから。