舞台は極東シベリアの原生林の間を縫う大河ビキン川。
「黄金の9月」と呼ばれるほど、森の木々は赤や黄色に染まっている。
その川を下る小さな舟に、村一番の漁師のじいさんとわたしが乗っている。じいさんが獲った獣たちの毛皮を町に売りにいくのだ。
夜になって、二人は岩山に身を寄せる。
火にあたり、お酒を飲み、じいさんの話を聞く。
大きなトラの話、イノシシ同士のケンカの話。
夜は更け、空には満天の星。
朝。
目覚めるとあたり一面、真っ白な霧に覆われている。
そして、二人はまた舟に乗って町をめざす。
霧に浮かぶ二人の影。
「わたしのうしろを、舟がつくる波がついてくる。」
やがて、霧がはれ、陽の光があふれたその時。
読者は開いたそのページに、きっと息をのむだろう。
黄金色で描かれた、よあけの世界。
きっと世界は、朝になると新しく生まれ変わるに違いないと、確信できそうなそんなページ。
絵本作家あべ弘士さんは、なんと素晴らしいことを描き、教えてくれたのだろう。
おそらく長年、生き物とともに生きてきたその果てにある、世界の生まれ変わりへの確信だと思う。
同時に読者は、映画にも絵画にも小説にも音楽にも劣ることのない、絵本の力を実感するだろう。
絵本の名作が、ここにまた一冊誕生した。