オーストラリア出身の絵本作家ショーン・タンのことは、
2006年に発表された『アライバル』(日本では2011年に出版)で
その名前を記憶している人も多いだろう。
この本は、文字がなく、絵だけで物語を紡いでいく、
とても斬新なものだった。
この作品でショーン・タンは一躍有名になり、
その後も多くの作品が出版されている。
今は絵だけの作品ではなく、
ちゃんと文もはいっているが、
それでも多くを語るのはやはり絵といっていい。
2022年7月に刊行された『いぬ』には
多くの言葉が綴られている。
それはタイトルに示す通り、
人間の歴史とともに常に歩んできた犬という動物への
愛情にあふれたものだ。
「あとがき」の冒頭に、
「犬と人間の関係は、ほかのどんなものとも似ていない。」と書いた
それがショーン・タンの、
犬への素直な思いなのだろう。
けれど、人間と犬の間には
大きな道があることもあったし、
河が流れていることもあった。
戦場で燃える鉄路が横たわっていることもあったし、
雪で閉ざされることもあったし。
ショーン・タンは、
その時々の人間の姿を変えるように、
犬の種もまた変えている。
そして、最後、
人間は犬とふたたび抱き合える時を持つ。
この本に描かれているのは犬だが、
それはもしかしたら、
愛する人かもしれないし、家族に見えないこともない。
あるいは、見知らぬ世界の人たちともいえる。
そういう多様さを感じられることこそが、
ショーン・タンの魅力といっていい。