村上春樹さんは絵本の翻訳もたくさんしていて、それはそれで春樹研究の一単元になるのではないかというくらい。
村上さんの絵本の研究がなされたからといって、例えば彼の長編小説の構成のありかたとか文章の成り立ちとかがわかるかといえば、それはどうでしょう。
むしろ、村上さんは長編小説の合間あいまに絵本の翻訳をしながら、音符で言えば休符記号みたいに、絵本の翻訳を楽しんでしるのではないかと考えているのですが。
だって、絵本というのは文章が少なくて、翻訳といっても、けっこう短時間にできるのではないでしょうか。あとはゆっくり言葉を丁寧に育てたり、刈り取ったり。
さらにいえば村上春樹さんにはお気に入りの絵本作家があって、その一人がこの絵本の作者C・V・オールズバーグです。
オールズバーグの作品は何冊も翻訳しています。
きっと春樹研究者だったら、そのあたりから、村上文学の特長とかをもっともらしい文章で綴るのでしょうが、私はもちろん春樹研究者でもないので、その理由はわかりません。
ここからはなんとなくですが、村上さんはオールズバーグの文章もさることながら、彼の絵がお気に入りではないかしらん。
村上さんといえば、その作品性だけでなく、コンビを組んだ多くの、といっても無条件にその嗜好が広がることはありません、イラストレーターといい関係を築いてきた、日本でも稀有な作家の一人といっていいでしょう。
まじめな春樹研究家だと、「村上春樹とイラストレーターの親密な関係」ぐらいの論文を書いてしまいそうです。
その研究をまつまでもなく、村上さんは絵をとても楽しんできた作家といえます。
オールズバーグの絵の魅力といったら。
この作品はモノクロームですが、細部に神が宿る、といってもいいくらい、ページの端から端まで神経が行き届いています。
魔女が主人公の後家(! この言葉をどうして村上さんが使ったのかも謎です。春樹研究者であれば・・・)に置いていった「魔法のホウキ」の、なんと生き生きしていることでしょう。
まさか村上さんが「魔法のホウキ」を欲しがったということはないと思いますが、これも春樹研究者の今後の研究結果にゆだねたいと思います。