多くの少年少女が知っているアンネ・フランク。
彼女の日記に感動し、ユダヤ人の迫害に対する恐怖と戦争の残酷さを痛感させられた人たちにとって、この『隠れ家』はとても気になる視点で書かれた物語です。
アンネの目を通して語られた人物たち、特にペーターはどんな青年だったんだろう。
思春期だからこそ気になるポイントをしっかりと見据えて、この物語はペーターの視点からあの隠れ家での生活を描いています。
忍び寄るナチの手を恐れながらの2年あまりの生活。
閉じこもり、身動きできないフランク一家と、ファン・ペルス一家の葛藤と共和の生々しい生活。
さらに歯科医のプフェッファー氏が加わって、プライバシーなどなくなった極限の生活において、ペーター、アンネ、そしてアンネの姉のマルゴーは思春期のきらめきの中を生きるのです。
多少の脚色と、ペーターには恋人のリーゼという架空の人物を登場させますが、アンネの日記に沿って物語は別の角度から展開していきます。
まさに『アンネの日記』を物語る物語です。
窓の外のマロニエに自由を感じながら、思い描くロマンス。
隠れ家が発見されるまでの最後の瞬間まで、休まることのない緊張感の中で、アンネとペーターの交際はとてもみずみずしく描かれています。
感銘深い作品です。
この物語は2部構成になっていて、後段では収容所でのペーターの姿を書き加えています。
1部とは全く異質の、死と表裏一体の重苦しい内容です。
アンネと離れ離れになって、ペーターは父親とフランク氏、そしてプフェッファー氏と共に、男子としての収容者としての過酷な生活を強いられます。
収容所に運ばれる列車の中で、人間としての尊厳を皆無にされたにもかかわらず、物としてすべてを受け入れるしかない存在になってしまうのです。
父は「選別」という仕組みで死んでいく。
様々な形での死、自らの解放を願っての自死、生き残りゲームのような「死の行進」…。
仲間たちは次々と死んでいく中で、ペーターの死はとても崇高に思えます。
ここまで耐えたのは、生きてアンネと再会したいという思いだったのでしょう。
生々しいけれど、現実のユダヤ人収容所の惨烈を基調にしていながら、書き方が澄んで見えるのは、多感なヤングアダルトを意識して言葉を選んでいるからでしょうか。
あとがきに至るまで、目を離せない物語です。