満開の桜、樹の上で手を広げる翁、その柔和な表情。表紙の絵に吸い込まれるように思わず手に取りました。めくるページの一枚一枚からは、のどかな村の風景や、生き生きした表情の登場人物が現れて、読む側を昔話への世界へといざないます。本当に表紙の期待感を裏切らない内容となっていました。また文章も昔話の語り口調を大事にしたテンポのよい文体です。美しい絵と読みやすい文章とが相まって、「よみきかせ日本昔話」というシリーズ名どおり、読み聞かせにふさわしい本になっています。
わたしは6歳の息子に様々な絵本を読み聞かせています。けれど、いじめも人殺しもあふれている昔話を、感じやすく少し臆病な息子に読むのを躊躇することがありました。「はなさかじいさん」でも、シロは怠け者のじいさまにポカリと殴られて死んでしまいます。けれど今回は、表紙の美しさに惹かれて少しのためらいもなく息子に読み聞かせました。息子も犬の死にばかり気をとられることなく、物語の世界を楽しんでいる様子でした。これからは怖がるだけでなく、生と死の不思議さや はかなさなども、昔話から感じとって欲しいと思いました。
子ども時代に聞いたり読んだりした話を、大人になってふと思い出すことがあります。そのような時には、その本に描かれていた絵が一緒になって思い出されたり、またはストーリーの記憶はぼんやりしているのに、絵のことだけがはっきり浮かび上がってきたりする場合もあります。幼少期の本は、絵の持つ雰囲気とともにイメージされ、記憶に残っていくのかもしれません。息子にとっての「はなさかじいさん」の記憶が、この絵本の表紙絵とともに残ってくれたら嬉しいと思います。