翻訳者である村上春樹さんに「字が一字もなくてもこの絵本は成立してしまう」とまで言わしめてしまうC.V.オールズバーグの絵本ですが、この作品はモノクローム。
しかも、ほとんど文字がないので、村上春樹さんのいうことを実践するのに適した一冊です。
これがなかなかいい。
昔のモノクロームの映画が見ている感じがします。
最近の映画はちょっと色が跳ねすぎて、目が疲れます。
その点、この作品はそうではない。
この作品で良くわかるのが、動きです。
とても動きのある絵が続きますから、まるでアニメーションを見る感じで読めます。
はじめにこの物語の主人公の二人、ベンとマーガレットが自転車をこいでいます。
最初は野球をしようと思っていた二人ですが、マーガレットが明日の地理のテスト準備で家に帰るというので、ベンもつまらないので家に帰って地理の教科書を広げます。
ベンの夢がここから始まります。
絵本というのは、書かれている言葉にこだわらなくてもいいと思っています。
読んであげる人が自由に言葉を変えてもいいのではないか。
相手の表情や心に合わせて、言葉を変えていいのではないでしょうか。
特にこの絵本のようにほとんど文字がない作品は、その自由度が増えます。
だから、読み聞かせなんかにはとてもいい。
村上さんが「字が一字もなくてもこの絵本は成立してしまう」といった気持ちがよくわかります。
字がない分、絵をいっぱい楽しむことができます。隅々まで楽しめます。
この絵本には最後に絵をいっぱい楽しんだ人にしかわからない仕掛けがあります。私は残念ながらページを逆戻りして、その仕掛けを見つけるはめになりましたが。
そういえば、村上春樹さんの最近の長編小説といえば『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』でしたが、まさかこのオールズバーグの絵本がヒントになったってこと、ないですよね。
村上春樹さんの小説のファンだったら、翻訳絵本も絶対はずせません。