【内容】
山の村にたった1軒ある雑貨屋さん「マルハナ商店」。ひとりのおばあさんが切り盛りしています。このお店には、村人以外のお客様がときおりやってきます。春夏秋冬、山のお客様がいろいろなご要望をもってやってきますが…
心温まる、不思議になつかしいお話6編。
絵:二俣英五郎
【感想】
茂市さんの作品は、どの作品にも不思議な温かみと懐かしさが感じられる。私自身は、山の村で暮らしたことなどないし、雑貨屋さんを営んでいる親類などもいないはずなのに、なぜか、物語の世界に大いに共感し、ほっとする安心感を感じる。まるで親戚のおばあさんの家に行ってきたような感覚を味わう。
昔は、コンビニやスーパーなどがなくて、このような何でも置いてある雑貨屋さんがあちこちに点在していたのだろうか。私自身が子どもの頃にも、その名残のようなお店があったが、結局、自動車が普及して、スーパーや24時間営業のコンビニなどがどんどんできると、自然と消えて行った。ばあちゃんの世代(大正生まれ)には、お店の人もご近所づきあいのようにして、おしゃべりしながら買い物をしたり、用もないのにお茶のみにいったりして、交流があった。今では、コンビニの店員に親しく話しかけて、何時間もお茶を飲んでいるような景色は見られない。(場所によってはあるのだろうか?)さっさと用事がすんだら、挨拶もそこそこに帰ってくる。時には人がいないような感じで通り過ぎる。
時代がどんどん変わって行くのに、対応して生きていくのは仕方がない事だが、このお話のような、温かな交流のある近所づきあいや暮らしが、もう少し残っていてもよさそうなものだと思った。もっとも、人づきあいにはある種のわずらわしさもつきもので、良いところばかりというわけにもいかないが。
丁寧に生きていく大切さを感じさせる、素敵なお話の数々。字が大きく、読みやすいので、どの年齢の人にもおすすめしたい作品集だ。