年齢に拘らず、子どもにとって母親がいなくなるというのは何よりも恐ろしい話です。大人になっても母親の死については考えたくない。まして幼児や小学生の子どもであったら、母親が自分の側から突然いなくなるなどということは絶対に想像もできないことでしょう。
絵本の素晴らしさは、現実を超えた疑似体験ができること。想像力を育むこと。しかし、この絵本ではその疑似体験、想像力に、子どもにとって絶対にあってほしくない『母親の死』という禁じ手を使ってしまいました。
のぶみさんは、スタッフ便りのインタビューで、母親も子どもも絵本の中で一度疑似体験してほしい、特に甘やかされた子どもにこそ読んでほしいとおっしゃっていますが、いやいや、子どもってそういうものではないでしょう…。
禁じ手といえばもう一つ。
現実には不幸な悲しみはたくさんある。
幼くても母親と別れなければならなかった子どももいます。
どのような別れ方をするかは、それぞれいろいろな要因がありますが、この絵本ではそれを『わたしっておっちょこちょいだから』と、軽く言ってしまう。
交通事故に遭った人を『おっちょこちょいだから』と揶揄するのは許せません。
母親の死因がおっちょこちょいだから、というのは子どもにとってはあり得ない。これを読んだ子どもに、『おっちょこちょいって何?』と聞かれたら、何と答えたらいいのでしょう。使ってはいけない言葉ではありませんが、本来、人の死に対して使うものではないのです。