初版からすでに80年が過ぎようとしているこの本には、ふしぎなくらい古臭さがありません。それは、作者の平和主義や幸福の捉え方などが、読み手に考える余地を残したまま提示されているからなのだと思うのです。
この話に出てくるおじいさんは、かなり情けない。寂しいから「ねこをいっぴき」飼いましょう、という先見の明も、「こんなにたくさんのねこに ごはんは やれませんよ」という現実を見る目も、おばあさんのものです。おじいさんは従うだけ。しかも、「いっぴきほしい」といったおばあさんの希望に反し、自身の優柔不断さから
100ぴきのねこ
1000びきのねこ
100まんびき、1おく 1ちょうひきのねこ
を、家に連れて帰ってしまうのです。そして、おじいさんおばあさんの決断は、ねこたちにまた、愚かな戦いを呼びます。
この絵本を読んだとき、子供たちは、一体これからどうなってしまうんだろう、というドキドキ感や、ああ良かった、と結末にホッとしながらも、どこかでちいさな「引っかかり」を感じるだろうと思います。どうして、おじいさんは全部のネコを連れて帰ってしまったんだろう、どうして、ねこたちは戦ってしまったんだろう、どうして、残ったねこは本当はきれいなねこだったんだろう、どうして。答えは、物語の中にはありません。子供たちが自分で「感じる」しかない。
こういう本こそが、子供のこころのなかに深く入り込み余韻を残し、思考する回路を開き、規範意識を育てたり思慮深さを養ったりするのだと、私は信じます。そして、こういう本を通じて感じたことがやがて、現実の世界にも理不尽な戦いがあることを知った時に、その現実と対峙するための、こころのチカラになってくれると思います。