2018年刊行。子どもの頃から「牛飼い」になりたかった筆者が、牛も人間も幸せになれる山地酪農に出合い、自分の農場を持ち経営を安定化させるまでの話。実話。
写真に写る牛は、山間部でのんびりと過ごし、新鮮な草を美味しく食べて、親子で幸せにくらしている。美しく、賢く、強い生き物だ。
現在、多くの場所で行われている「近代酪農」は、牛をまるで機械のように扱い、牛が本来食べないものを無理に食べさせ、運動もさせず、狭い部屋に閉じ込めて、肉と牛乳を利用するだけ。牛にとっても悲惨だが、実は、人間にとっても籠城条件も、体と心の健康においても問題ばかりであることがわかった。
しかも、政府が余計なことをして、将来有望な山地農業で自然と調和して良いものを作ろうとしている若い人をつぶしている。現状の苦しいところを知ると、本当に心が張り裂けそうだ。
そんな中、筆者は、大好きな牛と一緒に幸せに暮らし、働く道を選んだ。周囲の理解がない時もあり、お金の問題で絶望的になったことも何度もあるのに、乗り越えていった。
そして、とうとう理想の山を体に入れ、販路も確保し、事業を成功させ安定化させることで、次の世代を担う人たちに希望を与えた。研修生として受け入れて、育てる側の立場になった。
食や農業の問題は、いろんな難しい事が多い中、こういう心が洗われる素晴らしい実話を知ると、自分も勇気をもらう。
「今までのやり方ではダメだ」と気付いている人たちも、大いに励まされると思う。
さっそく、山地酪農で作った牛乳(ノンホモジナイズ、低温殺菌)を買って飲んでみた。
今、大多数を占める近代酪農の牛乳よりも、すっきりさわかやで、嫌な臭みもないし、変に濃い味もなく、体にすっと入って来る快適な牛乳だった。
牛が本来は、自分の子どもを育てるために出すものだから、
貴重なものである。私は謙虚に、「頂いている」ことを実感し、人間と共存する道を選んだ牛たちに感謝して生きていこうと思った。
人と命、食について、畜産業(酪農)について、日本の環境や将来について深く考えさせられる。
読みやすくまとめられているので、年齢を問わず、いろんな人に読んでもらいたい良書。
大変な思いをしながらも、良いものを提供し続けているすべての人たちに感謝します。(合掌)