大切な相手に新しい風景を見せてあげたいと願うこと。この絵本はそんな想いを描いたアナグマのおばあさんと子ネコのルルの物語です。
新しい世界へ一歩踏み出すためには勇気が必要です。『山の頂上』という新しい風景を見るために、気弱なルルはその第一歩のための勇気をアナグマのおばあさんにもらいます。山で体験する初めての出来事の数々。山頂から眺める素晴らしい景色。一歩を踏み出すことに成功したルルはたくさんのことを学びます。
けれど、いつしかおばあさんは足腰が弱くなり山に登れなくなってしまうのです。そして一人で山に登るルルは、ある日、山に登る勇気を持てない小さなうさぎと出会います。まるで昔の自分のように… こうして手を引かれる側だったルルは、優しくうさぎに手を差し伸べる側になっていくのです。
これはルルに焦点を当てれば、成長の物語です。でも、アナグマのおばあさんはどう感じているのでしょうか? ルルともう美しく雄大な風景を共有できない寂しさを抱えているかもしれません。けれど、それよりも手を引く存在になったルルを本当に嬉しく思うのではないでしょうか? なぜなら、このおばあさんにも自分がまだ幼かった頃、自分の手を引き新しい風景に導いてくれた誰かがいたはずだからです。おばあさんにとってのその人はもういないかもしれません。それでもそのとき自分を大切にしてくれた相手の記憶はきっといつまでも一番のたからもののままだと思うのです。その心が受け継がれていくことを誇らしく思わないはずがありません。
初めはか弱い存在だったお子さんたちもどんどん成長し、いずれは自分の足で歩き始めます。まっすぐに前を向いて必死に進むとき、今まで守り育てたあなたのことを振り返る余裕はないかもしれません。そんな巣立ちを見送ることは悲しいものです。けれども、大切に想う気持ちは受け継がれ、またどこかで新しい風景を見せてあげるためにその子達は優しく誰かの手を引くのです。そんな人生の大きな流れを感じさせる素晴らしい作品でした。