「俳聖」といわれた松尾芭蕉の句に「里古りて柿の木持たぬ家もなし」とあるように、古くから柿の木はどこにでも見かける果物の木でした。
なので、柿を愛する人も多く、正岡子規の有名な「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」だけでなく、柿を詠んだ多くの句が残されています。
柿には甘柿と渋柿があって、渋柿も「かじりたる渋柿舌を棒にせり」(小川軽舟)といったように親しまれています。
この絵本のタイトルのように、渋柿は干柿にしますが、「柿干す」という言葉も「歳時記」には載っていて、「完璧なあをぞら柿を干し終へて」(佐藤郁良)といった句もあります。
この絵本はおばあちゃんと一緒に干し柿をつくるお話です。
石川えりこさんの絵はどうしてこんなに懐かしいのだろうと思うぐらい、この絵本で描かれる暮らしぶりも、自分が体験したものではないのに、こんな生活だったなあと思ってしまう、そんな作品に仕上がっています。
子供たちが作る干し柿は「吊し柿」で縄に吊るして干します。主人公のちえちゃんはこれがうまくできなくて、洗濯物を干す道具を使っています。
お兄ちゃんは「串柿」で柿を貫いて干すやり方です。
家の軒舌に干し柿を吊るすと簾のようになるので、「柿簾」という言葉もあります。
その様子も、この絵本では描かれています。
このように私たちは昔から柿と暮らす生活に親しんできましたが、そういうのも段々薄れてきたのは寂しい。
せめてこの絵本でそういう懐かしさを味わいたいものです。