1983年に日本に紹介された『まどのそとのそのまたむこう』の新装版です。(出版社も違います。)
図書館に行ったところ、たまたま新刊コーナーで見つけましたので、旧版と共に借りてきました。
訳者がアーサー・ビナード氏ということで期待していたのですが、読んで本当に驚きました。
私は以前、旧版の感想も書きましたが、その時の評価は星3つでした。一言で言うと、読み手を非常に選ぶ絵本、万人向けではないと思ったからです。
こちらの新装版では、見事にその問題が解決されていると感じました。
一番良いと思った所は、旧版で私が最も引っ掛かっていたお母さんの頼りなさと主人公アイダに負わせる責任の重さが軽減されているところです。
庭の東屋に座り込むお母さんの表情が本当に頼りなさげで、それが不安を掻き立てるのですが、テキストに「じっととおくを見つめながら」と加わるだけで、その表情に必要以上の不安感を抱かずに済むのが不思議です。
それから、ラストに近い場面のお父さんからの手紙も、旧版のような、いたずらに子どもであるアイダに責任を負わせるような内容だと感じられない訳文になっています。
全編通して、旧版よりも説明的で文章量が増えている印象です。
一般的には、絵本の文章は極限まで削ぎ落とされることにより味わい深くなることが多いのですが、この本では、補足的に文章が加わることによって、この作品の持つ不気味さが軽減され、むしろきちんと内容を味わえる気がしました。
しかし、私は旧版の訳文が悪いと言いたい訳ではありません。
旧版の訳文は、全く無駄のない選び抜かれたことばのみで書かれていると思います。場面によっては、旧版の方が好きな文章も何ヵ所もあります。(特にゴブリンたちが消えていくシーンは、旧版の訳の方が良いと思いました。)
小4の娘に両方読ませてみると、旧版の方は分からないことばがあったと言っていました。やはり旧版の方が全般的にアーティスティックな印象を受けるのはそのためかもしれないと思いました。
新旧それぞれに良さがあり、しかし、先に書いたような理由で旧版は子どもには勧められないと思っていましたが、こちらの新装版は、子どもたちにも勧めて大丈夫だと感じました。
訳文が違うことでここまで印象が変わるとは!原書もぜひ読んでみたいと思っていましたが、ますますその気持ちが強くなりました。