父の背中を見て育ったとかよく耳にします。
それって、実はそんな大げさなものではなく、日常のなにげない父の姿に教えられるということかと思います。
ただ、背中は後ろにあります。目に見えない後ろにあるからそれはあまり目にしないものなのかもしれません。
日本で生まれた日系アメリカ人の絵本作家アレン・セイが1999年の発表したこの絵本を読んでいても、主人公の少年の父親が少年に見せるのは、普段少年が目にしない姿でした。
冒頭、「夏やすみにとうさんの家へ遊びにいった。」という一文があります。
これはもしかしたら、少年は日常では父と離れた生活をしていることを意味しています。
単身赴任でしょうか、両親の離婚でしょうか。
なので、少年は余計に父のことがわかりません。
ある時、父が少年をキャンプに連れ出してくれます。
少年が退屈まぎれに部屋の壁に貼った山や川の写真を見たからです。
ここから、一気に少年と父の距離が縮まります。
山道を歩くたくましい父。父が子どもの頃に遊んだ秘密の湖。(もっとも、ここは今ではすっかり観光地されていて二人はもっと山深い湖を目指します)
キャンプをしながら料理をつくってくれる父。
父にとってはいつもと変わらないそんな姿が、少年には新鮮に見えます。
父の背中とはきっとそういう普段目にしないもの。
だから、子どもにとってはとても貴重なものになるのでしょう。
こういう父と息子の物語に、やはり椎名誠さんがよく似合います。