山口勇子さんの作品の前半を、民話語りの沼田曜一さんの語りと、原爆の悲惨さを描き続ける画家の四国五郎さんの絵で絵本にした作品。
三者の思いが結晶になったものだけにとても思いと深みのある作品です。
戦時中でありながら、まだ平常があった広島。それを一瞬にして地獄とした原爆投下。その悲惨さを、わらいじぞうという親しみのあるお地蔵さんと、少女の物語にして伝えています。
原爆に被災して死ぬ寸前の少女。倒れこんで水をほしがる少女にわらいじぞうは自分の流した涙を与えます。
さいごに安らいだ顔で息絶えた少女。仁王の顔になって天をにらみつけるお地蔵さん。そのお地蔵さんが涙を流した後、くいしばった顔が粉になって崩れていきます。
これほど戦争の悲惨さを訴える話はないし、これ以上の説明は不要な作品です。
この絵本にかかわった三人の思いが他にもあります。
山口さんの原作。このお地蔵さんが「おこり地蔵」として広島に今もあるという話。復興した広島に戦争の悲惨を伝えるために立っている「おこり地蔵」について、絵本には記載されていない後日部分を加えて話してあげると子どもたちの納得度が高まるでしょう。
沼田さんの文。民話の語り口調なのでしょうか、読み聞かせしやすいのです。語りが子どもたちに染みていくように思います。
四国さんの絵。原爆の悲惨さを子どもたちに伝えるために、怖さを与えるのではなく、残酷さを柔らかに表現しています。あまり写実にはしると、この絵本の語りがしみこんでいかないように思いました。そして、最後の片隅にある花。実際にはあり得ない光景かもしれない。しかし、四国さんはここに望みを託したのだと思います。
子どもたちには、原爆の悲惨さを知るだけではなく、未来に向けて平和を育ててほしい。
とても良い本です。