『暗夜行路』といえば、志賀直哉の長編小説ですが、読む機会を逸したままでいます。
読んでいないのですが、主人公の青年が女の乳房を触りながら「豊年だ! 豊年だ!」と叫ぶ場面があることだけは知っています。
有名な場面だけど、読んでもいない小説の、そこだけ覚えているというのも何だか。
みやにしたつやの絵本に『おっぱい』という作品があります。その表紙には、どーんとおっぱいが描かれています。
その続編のようなこの絵本の表紙にもおっぱいがどーん。
志賀直哉の小説の主人公であれば、まちがいなく、「豊年だ! 豊年だ!」って叫ぶんでしょうね。
まだ小さい弟がおかあさんのおっぱいを「ふくふく」とさわっています。
お兄ちゃんの目線で、描かれている絵本です。
昼には「ぺたぺた」、お風呂では「ぴちゃぴちゃ」、夜には「すべすべ」、弟はいつだっておかあさんのおっぱいを一人占め。
「もみもみ」「ぷくぷく」「ちゅうちゅう」「ぷるるん」。
たくさんの擬音で、言葉でもおっぱいを表現しています。
それくらい、この絵本にはおっぱいがたくさん描かれています。
そういう時代はとうに過ぎましたが、うらやましく思うのは、男の性(さが)でしょうか。
「ときどきは ぼくのものだよ」と、おかあさんの胸(ここではおっぱいではないです)に手をあてるお兄ちゃんの気持ち、よくわかります。
でも、不思議なのが、この絵本にはおとうさんが登場しないのです。
おとうさんが子どもたちの姿をもっとうらやましく見ていたら、もっと微笑ましかったかも。
でも、子どもたちにこの絵本を読んであげていると、「どうしておとうさん、おっぱいが欲しそうなの」と聞かれて困るかもしれませんよね。
まさか、子どもたちに志賀直哉の『暗夜行路』の「豊年だ! 豊年だ!」なんていう話できませんもの。
でも、案外そのことがきっかけで、子どもたちが読書家になることだってあるかも。
やっぱり、それはないか。