それは2024年(令和6年)の正月元旦の夕刻でした。
のちに多くの人が、なにもこんなにめでたい日に酷いことが起こらなくともいいのにと
声を暗くしたものです。
夕方4時10分に、石川県能登半島でマグニチュード7.6の大地震が起こります。
「能登半島地震」と呼ばれることになる大震災です。
この時期の北国の夕暮れは早く、どんどん暗くなる街に津波警報が出て、
日本中が正月気分どころではなくなります。
暗くなる街に大規模な火災が発生し、どんどん燃え広がる様が
テレビ中継されていました。
場所は石川県輪島の中心、朝市通り。
石川の観光名所のひとつでもあり、実際に訪れたことのない人でも
その名前だけは耳にしたことのある場所です。
翌朝、朝市通りの変わり果てた姿に誰もが声をなくしたと思います。
大石可久也さんが絵を描いた絵本『あさいち』は、
今回の震災後に作られたものではありません。
奥付を見ると、1984年4月に出版されています。
なので、もう40年前の絵本です。
焼けてしまった多くの店舗と通りの悲惨な姿から、
もしかすると輪島の朝市の賑わいも忘れかねません。
でも、この絵本には朝市の賑わいが、人々の笑いが、行きかう言葉があふれています。
文となる「かたり」は、「輪島・朝市の人びと」となっていて、
もうこれは記録映画のようでもあります。
この絵本に登場する人のなかにも
今回の震災で被災された人がいるかもしれません。
どうか、ご無事でありますように、と祈るしかありません。
被害にあった街や人たちへ色々な救済の方法があるでしょう。
具体的な救済ができなくとも、
この街の人たちのことを忘れないでいることもりっぱな救済です。
絵本『あさいち』は、そのことを教えてくれます。