さあ、みんな乗ったかい?
ディア島をめぐり、バーチ島をすぎ、そしてエガモギン入り江を横切り、今年はこれで見納めだよ。
波と空をようく見ておくんだよ。
海の潮の香りをようくかいでおくんだよ……
読むたびに胸がきゅんとしてしまう。
「ああ、楽しかった夏が終わる」
僕らも、子どもの頃、僕らなりに味わった、あの感じ。
「ペノブスコット湾」は、確かにメイン州に実在しますし、
とうとう、この本への憧れが高じて、そこに行ってしまったりもしました。
でも、ぎりぎりまで感情を抑制して、淡々とした筆致で描写を続ける、この美しい絵本を繰り返し読んでいるだけでも、その自然や、人の営みの豊かさは、切ないほどにくっきりと伝わってきます。
遠い外国の風景なのに、どうしてこれほど懐かしいのか。
ペノブスコット湾は、今、渡辺さんの名訳によるこの日本語の本を読む全ての人の中にも、息づいていると思うのです。
僕ら大人の中の、その郷愁が伝わるのか、
不思議なことに、この中身をそれほど詳しく理解できないはずの息子も、この本の読み聞かせをしてもらうのが、何よりも好きなのは、嬉しいことです。