この絵本は、わたしを子供のころのあの楽しかった日にもどしてくれます。
場所は違っても、子供のころの夏の思い出は一緒です。
もう半世紀も過ぎた昔、でもこまぎれとなって、浮かんでくる思い出は、この絵本がより確かな絵となって心の中に。
はじめて行った海水浴。
焼玉エンジンのはじけるような音のする小さな船。こどもの手でさへ、下におろせば海水がふれる、大丈夫かなと心配になる小さな船で行った「瀬戸内」の島。
海辺で拾った貝殻。飲み込んでしまった海水の塩辛さ。
嵐の日。母親に肩を抱かれ、歌う姉妹の絵には、台風のとき、坂の上でじっと立って学校から帰ってくる、わたしを待っていてくれた父親を思いだします。
これから出会えるすばらしいときが、もう少なくなってしまった自分には、これまで出会えたすばらしいときを反芻して生きていくしか。
この絵本はページをめくるたびに、眼を閉じ何も言わず、惜しむように、またページをめくる。そんなことの繰り返し。
わたしをもう一度子供に返してくれる、そんな絵本