アメリカ、メイン州の小島を舞台にしたお話です。
この「すばらしいとき」は、同じマックロスキーの「かもさんおとおり」や「海べのあさ」などのように単色によるこまごまとした描き方ではなくて、絵の具を使って、自然の美しさと威厳を色鮮やかにダイナミックに描いています。
語られるのは、一家が島で過ごす春から夏。まず、冒頭の導入の6ページがすごい!
はるか彼方で生まれた雲が、ふくれあがりながらゆっくり島に近づいてきて、その雲の落とす影と雨の気配が本土から次第に島に近づき、ついに島の端っこに立って一部始終を眺めていた子どもたちの上にも雨粒が落ちてくるまでを描写していますが、ここだけを読んでも、すでにこの絵本がどのくらいの力強さを蓄えているのか察せられます。心臓がドキドキしてしまうくらいの力量があるのです。筆致にも、そして父親のような優しい語り口にも。
どのページからも聞こえてくるさまざまな音。水の音、風の音、鳥たちの声、植物が育つささやきと歌声、子どもたちの歓声。漂ってくる潮の香り。自然の懐に抱かれて五感をフルに使って豊かに過ごす日々。おごることなく従順に自然を見つめて暮らすうちに感覚はいよいよとぎすまされ、自然のご機嫌の変わるときも見極められるようになるのです。
それだけではありません。自然相手の心豊かな日々は、人々のつながり、家族の結束力も強めてくれるのです。心配など何もない、取り囲むものすべてに守られた環境の中で思い切り跳ね回って過ごした時間・・・だれにでもあったであろうそんな日々をゆったりと思い出させてくれる、きらめく懐かしさが宿る一冊です。