冬に見かけたりんごの木を大事に手入れし、秋にたった一つだけ枝に残ったりんごを収穫してよろこぶ話。
話の筋は単純だが、登場人物たちの会話が興味深い。
1954年にチェコで出版された当時の、人々の考え方や感覚がそのまま文字で残っているような気がする。(日本では1972年に発行)
こいぬが荒っぽい性格で、体は小さいのに威張っているような様子が、昔の悪ガキを思わせる。自分のおじいちゃんが子どものころなら、こんな感じだったのかもしれない。
日本語に訳する時に、それぞれの登場人物の性格をイメージして台詞に個性を入れていくのかもしれないが、お母さんがやたらに丁寧で、THE・良妻賢母な雰囲気。こいぬは上司(父母)には敬語、庭の動物にはぞんざいな口の利き方。少年はどっちつかずで無難な感じ。この人たちが絵本の世界以外で何をしているのか、興味がわく。絵本は彼らの生活の一部を切り取っただけの世界だと考えると、この一家が2020年現在はどうなっているか知りたくなる。
そんな余韻を残す作品。意外と古さを感じない絵の力もすごい。